不安なとき、体に何が起きている?
臨床心理士・公認心理師の杉田です。
前回、”不安は心に備わった警報機”というたとえをお話をさせていただきました。
今回は、その警報機が鳴っているときに、からだに何が起きているかをお伝えしていきます。
例えばあなたが、大勢の人の前で発表するときや、苦手な場所にいるときなど、急に心臓がドキドキしたり、呼吸が速くなったり、手に汗をかいてしまったりしたことはありませんか?
「自分がおかしくなってしまったのではないか?」と、余計に不安になってしまった経験をお持ちの方もいるかもしれませんね。
でも、安心してください。
それは、あなたの体に異常が起きているのではなく、あなたの体を守ろうとしている正常な反応なのです。
不安の見張り番『扁桃体』
我々の脳には『扁桃体』という、優秀な見張り番がいます。
この扁桃体が、目や耳から入ってくる情報をもとに、危険がないかを監視しています。
大昔であれば、我々の先祖がマンモスを発見した時に、この見張り番の扁桃体が反応します。
大急ぎで脳の司令塔に連絡をし、その情報を受けた脳の司令塔が全身に指令を送ります。
「非常事態発生。闘うか、逃げるかの準備をせよ」と。
この指令を受け取り、体の各部位を動かすのが『自律神経』です。
(ちなみに扁桃とはアーモンドのことです。ちょうどアーモンドの形をしているそうです。喉にある扁桃腺もアーモンド型ですね。)
体のアクセルとブレーキ
この自律神経には、車でいうアクセルとブレーキのようなスイッチがあるとされています。
アクセルが『交感神経』、ブレーキが『副交感神経』と呼ばれています。
アクセル(交感神経)は、体を活動的にし、興奮させます。
ブレーキ(副交感神経)は、体を休ませ、リラックスさせます。
見張り番の扁桃体が「危険だ!」と判断すると、体は瞬時にアクセルを全開にします。
これが体に組み込まれた緊急モードで、「闘争か逃走反応」と呼ばれています。
この時、体では次のようなことが起きています。
・心臓がドキドキ
⇒筋肉にたくさんの血液を送り、いつでも走り出せるようにしている。
・呼吸が速くなる
⇒たくさんの酸素を取り込み、体をパワフルに動かす。
・手に汗をかく
⇒全力で動いて体が熱くならないよう、冷却装置の役割をしている。
・お腹の調子が悪くなる
⇒消化などのリラックスしている時の活動を止め、「闘う・逃げる」ことを最優先にする
このように、ひとつひとつの反応すべてに、体を守るための意味が隠されているのです。
現代のマンモスは?
しかし、現代の社会ではマンモスに襲われることはありません。
しかし見張り番の扁桃体はとても真面目なのです。
・大勢の前でのスピーチ
・上司からの厳しい言葉
・SNSでの心ないコメント
・将来への漠然とした心配
といった、現代社会のストレスを「マンモス級の危険」だと勘違いしてしまうことがあります。
だから、体は正直に反応し、アクセルを全開にしてしまいます。
もしあなたが不安でドキドキしてきたら、それは病気なのではなく、「あ、私の脳の見張り番が、私を守ろうと一生懸命アクセルを踏んでくれているんだな」と思い出してみてください。
自分の体の仕組みを知ることは、不安に飲み込まれそうになったとき、冷静さを取り戻すための大事なきっかけになります。
「このドキドキは、危険なものではない」と理解することは、さらなる不安を防ぐための大切な一歩になります。
そうとは言っても、不安に立ち向かうことが大変な方もたくさんいらっしゃいます。
そのようなお悩みを専門家に相談したいと考えている方は、ぜひ当相談室をお尋ねください。