予期不安と反芻思考
こんにちは。
臨床心理士・公認心理師の杉田真也です。
不安の記事の9回目です。
さて、前回は「考えすぎ(ぐるぐる思考)」が、あなたを守ろうとする脳の自動的な働きであることをお話ししました。
「私のせいじゃなかったんだ」と、少しだけ心が軽くなった方もいらっしゃるかもしれませんね。
今回は、その「ぐるぐる思考」をもう少し詳しく分けてみたいと思います。
あなたの「ぐるぐる思考」は、どのタイプ?
あなたの「ぐるぐる思考」は、時間軸で言うと、どちらに向いていることが多いですか?
- Aタイプ:「もし、次のプレゼンで失敗したらどうしよう…」「将来、お金がなくなったらどうしよう…」と、まだ起きていない未来のことばかり考えてしまう。
- Bタイプ:「なぜ、あの時あんなことを言ってしまったんだろう…」「もし、あの選択をしていれば今頃は…」と、すでに終わった過去のことばかり考えてしまう。
もちろん、両方あるという方も多いでしょう。
この2つの思考パターンには、それぞれ名前がついています。
未来への心配=「予期不安(よきふあん)」
過去への後悔=「反芻思考(はんすうしこう)」
専門的な名前があると知るだけで、「自分だけの悩みじゃないんだな」と少し安心できますよね。
それぞれの特徴を見ていきましょう。
未来志向のぐるぐる:「予期不安」とは
「予期不安」は、その名の通り、未来に起こるかもしれないネガティブな出来事を、あらかじめ心配してしまう思考です。
「もし〜だったら、どうしよう?」
脳の中では、最悪の事態を何度もシミュレーションして、危険に備えようとしています。
これは、準備を促すという点では、私たちにとって必要な機能です。
しかし、この予期不安が強くなりすぎると、まだ起きてもいない不確かなことのためにエネルギーを使い果たし、行動を起こす前に疲れ果ててしまいます。
「備え」のつもりが、身動きを取れなくする「足かせ」になってしまうのです。
過去志向のぐるぐる:「反芻思考」とは
「反芻思考」の「反芻」とは、牛などが一度飲み込んだ食べ物を、何度も口に戻して噛み直すことを指します。
それと同じように、終わった出来事を、何度も心の中で繰り返し再生し、その原因や意味を考え続けてしまう思考が「反芻思考」です。
「なぜ、あんなことを…」「もし、あの時〜だったら…」
一見、失敗から学ぼうとする「反省」のように見えますが、大きな違いがあります。
反省が「次どうするか」と未来に向かうのに対し、反芻思考は答えの出ない「なぜ?」を繰り返し、自分を責めるだけで終わってしまうことが多いのです。
変えられない過去に囚われ、自己肯定感をすり減らし、「今」を生きるエネルギーを奪ってしまうのが、反芻思考の辛いところです。
自分の「クセ」に気づくことが、はじめの一歩
いかがでしょうか。あなたは、どちらの思考パターンに陥りやすい「クセ」がありそうでしたか?
大切なのは、「ああ、また自分は『反芻思考』の沼にはまっていたな」あるいは「『予期不安』の連鎖が始まっているな」と、客観的に気づけるようになることです。
自分の思考のクセに気づけるだけで、ぐるぐる思考に飲み込まれるのではなく、少し距離を置いて眺められるようになります。
では、気づいた後、どうすればいいのでしょうか。
本格的な対処法は今後の記事で詳しくお話ししますが、今日は応急処置を少しだけお伝えします。
- 「予期不安」には…
漠然とした「心配」を、具体的な「課題」に変換してみましょう。「失敗したらどうしよう」ではなく、「失敗しないために、今できる小さなことは何だろう?」と問いを変えてみるのです。 - 「反芻思考」には…
答えの出ない「なぜ?」から、意識的に抜け出しましょう。五感を使って「今、ここ」の感覚に意識を戻すのです。温かいお茶をじっくり味わう、窓の外の景色を細かく観察するなど、何でも構いません。
まずは、自分の思考のクセを知ることからです。
それが、おせっかいな脳と上手に付き合っていくための、大きな一歩になります。
オンラインカウンセリングの『心理相談室ちゃのま』では、不安についてのご相談をお受けしています。ご自身では不安に対処することが難しいと感じられている方は、お気軽にご連絡ください。
それでは、また次回もよろしくお願いします。